【金靖征】「事業での学びをショートカットする」ためのエンジェルの活かし方
起業が当たり前だった、家系にサラリーマンのいない幼少期
ー生い立ちや幼少期の話を教えてください
親戚がみんないろんな事業を展開する起業家たちで、ホテル経営や焼肉屋さん、不動産まで幅広く扱っていて、サラリーマンがいないんですよね。
どの親戚も事業は比較的うまくいっていたので「起業したらうまくいくんだろうな」というぼんやりとしたポジティブなイメージは小さい頃からありました。また、父親も起業家としてある程度成功をおさめていたので、自然と僕もやりたくなりました。家族で占いに行った時も「この子(自分)はお父さんの50倍成功しますよ」みたいに言われたこともありました(笑)。そのくらい、幼少期から「起業」には強く関わりがあったように思えます。
たまたま見つけたTNKに入り、学生起業へ
ー高校を卒業したあとは東大へ。学生で起業するつもりはなかったと聞きました。
最初は、学生時代に起業するつもりはありませんでした。人生というスケールで見ると起業するつもりはありましたけど、サラリーマンとして数年働いてからだろうなぁとぼんやり思っていましたね。
ただ、TNK(東大の起業サークル)に入ったことがきっかけでした。入学直後の新歓で、他のサークルが普通に勧誘している中、TNKだけ「“東大までの人”と“東大からの人”」みたいなキャッチコピーで勧誘していて「怪しいなー」と思いながら話を聞きに行ったんです。起業には興味があったし、東大に入ったら優秀な人と繋がろうというのは決めていたので、とりあえず入っておこうくらいの気持ちでTNKに入りました。
本当に帰り際にちらっと見かけただけがきっかけですし、あれがなかったら今の自分はありませんね。
ー直後のビジコンで優勝されたんですよね?
優勝といっても、TNK内で開催された6チームくらいの小さいビジコンですけどね。アイディア考えて、発表して、優勝、みたいな。家庭教師の派遣サービスみたいなものを考えました。
それまでTNKで活動していて「学生起業を早くしないと周りにで遅れてしまうのでは?」と焦りのようなものを感じ始めていました。
時代的には学生起業がそれほど身近ではなかったのですが、よくよく考えてみるとソフトバンクの孫さんもCyberAgentの藤田さんもGunosyの福島さんも学生起業だし、デカイことやるなら学生のうちに起業しないとやばくないか?みたいに感じたんです。
そのような焦りもあり、小さなビジコンで優勝したのもあり、当時仲間だった人が起業したくてうずうずしていたのもあり、とりあえずこれで起業してみるか!というテンションで起業しました。
とはいえ、議論を詰めるうちに「アイディアが渋いね」という話になり、起業はやめないけど家庭教師派遣サービスじゃなくて、別の事業をやろうということになりました。
「ファッション版クックパッド」を目指すも、ピボット
ーそこからファッションコーディネートアプリにピボットされたんですね。アイディアの着想はどのような感じだったのですか?
これはひどいもんですよ(笑)。
アイディアの作り方みたいな本があって、その本に「アイディアを出すには2つのキーワードを出しまくってそれを掛け合わせることだ」みたいなことが書いてあったんで、そのままやりました。
いろんなキーワードを出して掛け合わせた結果、「ファッション」と「クックパッド」が面白そうだと。「ファッション版クックパッド」とかまだないよね、やってみようみたいになりました。
今の時代とはレベルが違って恥ずかしいんですが、当時はそんな感じでした。
今の時代だとかなりビジネスやテクノロジーの情報が簡単に手に入るのでトレンドを追いやすいと思うんですが、当時は「ファッション版クックパッド」が僕らの中では最前線でしたから(笑)。
VCの存在も身近には感じていませんでしたし。当時はスカイランド木下さんにも、アンリさんにも会ったことなくて。逆に怖いという印象でしたね。
ー当時は自分たちでコードを書いてたんですか?
いえ、僕らはプログラミングができなくて作れませんでした。でも、起業する熱い感じを出したら教えてくれる人がいるに違いないと思って、WishScopeという今のジモティーみたいなサービスで「エンジニア教えてくれる人募集します!!」という投稿をしたんです。
そうしたら日本電子専門学校の人が反応してくれました。直接お会いして、「こういう気持ちでこういうことをやりたくて勉強したいんです!」と想いを伝えたら、タダ同然の本当に安い値段でプログラミングを教えてくださったんです。
余談ですが、その人は僕たちにとって本当に神様みたいな存在で、縁が重なって今でもずっと仲良くさせてもらっているんです。僕らは立ち上げの時に助けてもらった恩がありますし、こちらからは技術的課題がある色んなスタートアップを紹介させて頂いたり、いい関係を続けています。
本当にいい人で、若い子たちが育っていくのがただただ幸せ、みたいな人なんですよ。めちゃくちゃ感謝しています。
そのような感じで勉強しながらプロダクトを作り始めました。勉強しながらだったので7,8ヶ月くらいかかってしまったのですが、出資を募るためにVCや投資家の方に話を聞きにいくうちに、別の事業にしないといけないと感じて、出資していただく2014年12月のタイミングでピボットしています。
投資家には泥臭くアタックした
ー当時遠い存在だったVCや投資家にはどうやって接点を持ったのですか?
今なら普通に紹介してもらえばいい話なのですが、当時はそれほど気軽に会える感じでもありませんでした。だからGoogleで「シード投資家 おすすめ」で検索して、まとめにリスト化されてた人全員にメッセージを送りました。プロダクトもモックもない構想の状態で、「こういうメンバーでこういうことやろうとしてます」みたいに。それも、ワード2枚で。パワポでやれよって感じですよね(笑)。
ただ、メンバーは経歴やスペックだけ見るとイケてる感じだったので、意外と会えました。東大生と早稲田生とハーバード生で、メンバーの1人は1,000人規模のイベントやってましたみたいな人で、すごそうに見えるという(笑)。なので多分、とりあえず会ってみるか、みたいな感じでお会いすることができて、そこからちょこちょこ紹介していただいて、スタートアップ界隈に入っていった感じですね。
ーそもそも、投資をしてもらおうと思ったのはなぜだったのですか?
お金を使わないようなマネジメント手法は、今使える手段だとしても将来的にはダメだと思って、お金を使ってちゃんと前に進めようと思ったからですね。
当時出資を受けるまでは、いかにお金を使わずにやるかというのを頑張っていました。だから、知り合いの学生の女の子に手伝ってもらったりしてました。サークルだとお金をもらわなくても活動するので、僕らの会社で働く方がサークルよりも楽しければ、タダで働いてくれるだろうというロジックですね。
しかし、このようなマネジメントは無駄だと思ったんですよね。「お金じゃないところに楽しみを覚えてもらって働いてもらう」ということに時間と脳みそを使いすぎて、本質的なことにあまり取り組めていませんでした。
だから時間をお金で買う、みたいなイメージで調達しようと思いました。
猛アタックしていたSkylandに断られる
ー投資家はどのような流れで決まりましたか?
「人を紹介してくれるVC」という基準で探していました。これもまた自分アホだなと思うのですが、当時「事業は自分でできる」と思ってたんですよ。だから、事業面というよりは、「人を引っ張ってきてくれる人(VC)」というのが重要項目にあって、Skyland Ventures(以後スカイランド)に入れて欲しかったんです。
スカイランドの木下さんは界隈で精力的に投資先のPRをやってくれて、界隈でイケてるという状態を作ってくれるんです。当時だとカウモとかはそうですね。木下さんきっかけで採用が決まったりもしょっちゅうあるような感じだと聞いてました。だから木下さんに入れて欲しくてアタックしてて、検討頂いていました。ただ、検討最後らへんで「やはりなんか違う気がする…」と言われて無しになってしまいました。
ただ、今でも木下さんの大きな後悔として「Candleに出資しなかったこと」とメディアに言ってくれているので、本当に嬉しいです。
プレゼン力がなかった
ー意外とファイナンスは苦労されたんですね
そうですね。プレゼン力って大事だなと思いましたね。
世の中には全く信頼と実績がない状態で、「こいつイケてる」と思わせることができる人がいますが、僕にはそんな力が全くありませんでした。皆無です。
太河さん(East Venturesパートナーの松山 太河 氏)にも木下さんにもアンリさん(ANRIパートナーの佐俣アンリ 氏)にも刺さりませんでしたね。つまりイケてない、という感じでした(笑)。でも冷静に客観的に見たらわかりますが、プレゼンが下手なんですよね。
今となってはある程度の信頼や実績が伴ってきて多少マシになりましたが、あの時はダメダメでしたね。ファイナンスが難航したのは完全に僕のせいだと思います。
太河さんなんかは最初お会いした時は結構出してくれそうな雰囲気でしたが、結局うんともすんとも無く、「入れてください」すら言えない感じでしたよ(笑)。
福島さんが唯一、最初から自分を信じてくれていた
ーそれは若手起業家にとってかなり勇気付けられることだと思います。シード投資はどうやって決まったのですか?
結局入れてもらったのは韓国のBon AngelsというVCとGunosyの福島さんです。
Bon Angelsは韓国のシード投資界隈では有名で、日本でいうEast Ventures的な感じですね。そこは、まだプロダクトも何もない状態で1億円バリュエーションで1,000万円投資してくれるというオファーだったので投資してもらいました。
福島さんは日本の中で唯一、最初の最初から僕を信じてくれていた人です。おそらく僕が福島さんのエンジェル投資1号なんですよね。最初から「金くんはめっちゃいい。好きなようにしていいよ」と言ってくれて。
TNKの先輩だったのですが、そのサークルで僕らが出店していた東大の五月祭で福島さんが突然やってきて、神シートみたいな席を用意してお話しさせていただいたのが最初ですね。その後、同じ学科の友達で当時Gunosyでインターンしている人に福島さんが「彼優秀だね」と、僕のことを話してくれていて。それが嬉しくて、一度お会いさせてくださいと伝えて2人でお会いさせて頂きました。
ーそういう意味では、最初の方の調達でエンジェルを入れることにはかなり肯定的ですか?
僕は超ポジティブに捉えています。今の僕がいるのも福島さんのおかげですし、後からアリコーさん(ペロリ初期メンバーの有川鴻哉 氏)に入れてもらって今のサービスのグロースの8.5割くらいがアリコーさんのおかげでもたらされましたし、國光さん(gumi代表 國光宏尚 氏)のおかげで視座が低くならずにすみました。いいことしかなかったですね。
先輩の言うことは、結構正しい
ー事業はファッションコーディネートアプリからすぐピボットした感じですか?
はい、投資家の方達と話をして決めました。話していて、誰一人として「良いね」と言ってくれなかったんですよ。「それはどうかな、わからない」という反応でもなくて「それは、いけないよ」と言われるんです。
でも当時は山っ気があって、アンリさんから「iQON(ファッション系アプリ)があれだけ伸びているのは金山さんがやっているからだよ」と言われても「金山さんがいけて俺らがいけないわけない」と思ってました。学生時代は本当に周りが見えていないものでした(笑)。
結局、資金調達力とかアプリのグロースハックとか採用とか、全部ひっくるめて「確かにあれはすごすぎて、金山さんにしかできない」というのを作り始めてリリースする前には気づきました。
先輩方のいうことは、明らかうまくいかないという系統のものに関しては、結構正しい確率が高いので、素直に従ったほうがいいことが多いという学びですね(笑)。
福島さんの後押しを受け、キュレーションメディアへ
ーピボット後のキュレーションメディア事業も、エンジェルからアドバイスをもらって考えたんですか?
そうですね。福島さんから情報をいただいて決めました。もちろん「キュレーションをやれ」みたいな言われ方は全くされず、意思決定は任せてもらっていました。
ただ、他のところからMERYが伸びているという情報を聞いて、現状を見ればキュレーション事業が良さそうだがどう思いますか?と福島さんに相談しに行ったら、「俺だったら今のファッションアプリよりキュレーションの方が伸びる気がするかな」と後押しをいただいて、ピボットを決意しました。
「学びをショートカットする」ためのエンジェルとの関わり方
ーその後のグロースはアリコーさんに話を聞いて、という感じですか?
はい。めっちゃ色々教えてくれて、アリコーさんは本当に神だなと思います。
ただ、質問力というのは本当に重要だと思います。エンジェルの方達の知恵はすごいのですが、それを引き出す能力も同じくらい大事です。だからアリコーさんと会う前なんかは丸一日使って質問を用意しました。そして当日用意した質問をバンバンぶつける感じです。
そこで半端なく進捗するのですが、アリコーさんに質問することでもたらされる進捗が大きすぎるので、1週間ハワイいけるねと一緒にヒアリングしたメンバーとmtg後にいつも話していたレベルです。
基本グロースの施策はどのサイトでも正攻法があるのですが、当時の僕らみたいな規模のサイトはデータが少なく変数が大きくて、1つの施策が良いのか悪いのかを判断するのにかなり時間がかかるんです。SEOとか特にそうなんですけど、データが少なかったら「分かり得ない」んですよね。そのような暗中模索の中、アリコーさんは培った経験に基づいた「答え」を教えてくれるんです。
一番ボトルネックになっている課題に対して、適切なアプローチを教えてくれるみたいな存在で、本当にありがたかったです。
ちなみにCandleを売却した際に言われたのが「金くんは圧倒的に質問力が高かった」ということです。エンジェル側も効果を発揮している実感があったと。だから、僕は特にエンジェルを使い倒してめっちゃ活かした例だと思いますね。
大人力を求めてその後の資本政策を組んだ
ーその後の資本政策で調達した際のVCと、その理由を教えてください。
インキュベイトファンド子ファンドの柴田さんとEast Ventures、そしてBdash Venturesに入れてもらいました。B Dash Venturesに関しては、「大人力」が欲しかったからです。僕らは学生ばかりの若い会社だったので、外部との営業や交渉が増えていくに当たって、どっしりとしたVCが株主にいる安心感は大きかったです。
それまではVCとしてはBon Angelsしかいなくて、彼らは日本での知名度はそこまで高くなかったので、やっぱり日本でも知られている大人のVCに入ってもらうことで、会社としての信頼も得られるようになりました。
インキュベイトファンド子ファンドの柴田さんは、YouTube系とかメディアグロースに関しての知見が豊富だと聞いていたので教えて欲しいという理由もありました。
East Veunturesに関しては、最初の段階での投資は断られたものの、シェアオフィスを貸してくださっていて本当にお世話になったので、恩返しの意味も込めて是非入って頂きたかったという感じです。
自分たちの事業に知見のあるエンジェルを入れるべき
ー学生起業家がエンジェル投資家に出資してもらう際、どのような選び方をすれば良いですか?
自分がやろうとしている事業に知見のある人に入れてもらうことがめちゃくちゃ大事です。もはや、それができないのはミスとさえ言えると思います。
想像性が大事、などとよく言いますが、最初のデータが集まっていない状態から想像性を働かせてもあまり意味がないと思っています。最初はやっぱりわからないことも多いのでPDCAがうまく回せないですし、そのフェーズは知見のある人に教えてもらうことができればスムーズに前進できます。ある程度進んだ上で、つまり色んなデータを手に入れた上で、想像性を発揮すれば良いと思うんです。
C2C事業をするのであれば、自分で最初からやるのとメルカリの山田会長やFrilの堀井さんにエンジェルで入れてもらうのとでは圧倒的に違いますよね。海外展開に関しても同じで、海外展開の経験があるエンジェルなどに入ってもらったほうが絶対にスムーズに進むはずです。
とにかく、自分がやろうとしている事業領域ですでに知見がある人に出資してもらったほうがいいです。
あとは、一気に調達せずに、バリュエーションは低めで刻んで調達することも意識しました。自信があるんだったら一気に調達する理由ってないじゃないですか。だから、自分の自信やどれだけ大きなことをしたいのかっていう目線ですよね。
あんまり自信がないけど、一定規模にイグジットしたいというのであれば、大型調達してダウンサイドで売却とかでいいと思うんですけど、本当にでかいことをしたいなら刻んだほうがいいと思います。
僕の時もバリュエーションはそんなに上げてなくて、月500万の利益とかでもバリュエーション5億とかでしたし。10億とかで売却できる事業体だったので、一応ゴールを設定した上で、売却した際も株主がハッピーになるように、このバリュエーションに設定しました。
今後の自分の起業家人生のために売却
ーもともと上場がゴールだった中で、売却に至ったのはなぜでしょうか。
最初はむしろ売却もあると思っていました。でも、途中から「このメンバーで上場したい」と思うようになって。本当にメンバーが優秀なんですよ。インターンとして入ってくれていた子も今はU25で活躍する起業家となっている人が多いですし。
上場を目指してやってはいましたが、可能性として売却もあると思っていたので、そのようなケースのためにバリュエーションは抑えめにしていたというのはあります。
EXIT戦略は「これしかない」という白黒ついている感じではなく、どちらの可能性もあるグレーな感じでした。そんな中でクルーズ社からお話をいただいたので、一緒にやろうという流れになりました。
ー数あるオファーの中でクルーズ社を選んだ理由は?
とにかく、自由にやらせてくれることについてきっちりコンセンサスが取れたことが大きかったですね。
ユナイテッドに売却したアラン・プロダクツ代表の花房さんとかも同じような感じなんですが、まだやりたいんですよ。
22歳とかで売却しているので年齢でいうと新卒半年くらいで、山っ気が全然あるんですね。だから、今の自分の価値を顕在化させるために売りますが、この価値の顕在化は今後の自分の起業家人生のためにあるんです。売却後もずっと起業家として挑戦して成長したいと思っていて、そのためには売却した後も自由にやらせてくれるような環境じゃないとダメだと思っていました。
先輩起業家たちを早く追い越したいし、年下や同世代がガンガン追い越してくる恐怖もあるので、自分の成長が遅れるのが1番恐れていたことでした。
目先の利益というよりも、数十年後を見越した大きなインパクトを創出できそうな一手に思えたことがクルーズ社に売却した理由です。
起業家集団「Candleマフィア」が優秀である理由とは
ーエンジェル投資家としては元Candleのメンバーに積極的に入れている印象がありますが、やっぱり彼らは優秀ですか?
優秀ですし、Candleは会社として「教育」にかなり力を入れていたほうだと思います。ポテンシャルはあっても志が高くないような学生をやる気にさせて、成長させる環境は整っていました。ライターのアルバイトとして入ってきて当時は志も全然高くなかったような学生が起業してうまくいっていたりもしてます。そのライターアルバイトが、最近DMMにEXITした、終活ねっとの岩崎くんだったりします。
また、起業する前にインターンとして経験を積むことも重要です。インターンしてから起業した方が、全体的に早いと思います。
これは僕自身の体験からきていて、インターンを経験せずに最初に起業した2014年4月からの1年間はあえて「無駄だった」と表現しています。もちろん学びもあったし今に繋がる経験をしましたが、明らかに他のベターな選択肢と比べて成長幅が低かったなと思うんです。
最初の1年間、起業せずにインターンをしていたら得られていただろう経験値の方がはるかに大きくて、それと比べたら起業で得た経験がほぼ0に等しいレベルです。
具体的には、最初とか本質的なKPIを達成していないのに訳も分からずUIを変えてみて「伸びるかなー」と思ったり。そんなのやって伸びるわけないんですけど(笑)。そんなことは実際に体験しないと分からないものでもなくて、インターンをしていればちゃんとしたスキームで学べたはずなんですよ。インターンをして、ある程度成り立っている事業の中で働くことで基本的なことを学び、そこから起業したらよかったなと今でも思います。
今「Candleマフィア」として起業している人はみんな、Candleのインターン経験者なので僕も仲がいいですし、優秀です。Wizleap、Telescope、終活ねっと、Strideなどに入れてます。基本的に元Candleで起業する人は応援していて、その一環で資金調達の紹介とかしているのですが、その流れで「入れてください」となってみんなに入れるという感じですね。
みんなめちゃくちゃ根性があるし地頭もいいし、頑張ってくれるので「僕は安泰だなぁ」なんて思ったりもします(笑)。
今後の投資基準は「本当に大きくなるところ」
ただ最近だとCandleマフィアには一通り出資し終わったので、投資基準をまた少し変えています。今までは「出資してください」と言ってくれた人には基本的に出資させてもらってたのですが、最近は「本当に大きくなるポテンシャルがあるもの」に限定しようと思っています。
だって、メルカリとかFrilに初期投資して、C2Cプラットフォームがぐんぐん伸びていくのを近くで見ていた投資家の方達は絶対に楽しかったと思うんですよね。小さな規模のEXITを目指す会社への少額出資をたくさんやるよりも、本当に大きくなりそうな会社に大型出資を1回する方が楽しいだろうな、と最近は思っています。
高い目標に対して本気で意思決定し、行動できる起業家求む
ーどのあたりにその見極めポイントがあるのですか?
「本質的な意味での志」と「プロダクト」ですね。
例えば「甲子園で優勝したいです」みたいな大きいことを言っておきながら、練習で130km/hくらいのボールしか打たないのであれば、予選を勝つ確率は上がるかもしれませんが、「本当に優勝する気ある?」という感じになりますよね。本気で優勝を目指すのは、145km/hとか150km/hの球を練習してこそだと思います。
目標設定を高くするのは誰でもできますが、それに直結する行動をする意思決定をちゃんとできていますか?というところですね。
「1,000億円企業を目指します!」と言っているのに、隙間産業ばかり調べて「これも楽しそうだと思うんです」みたいなことを言っている人は、「いやそれでは1,000億企業無理じゃない?」と思うし、目標に対して本気で正しい順位付けができていないですよね。
僕の投資先でAR事業をやっているGraffityという会社の森本くんなんかはヤバくて、僕がキュレーションメディアで12.5億円の売却を全く羨ましいと思ってないんですよ。「1,000億円いきませんよね。以上。」みたいな。プロダクトの産業領域を選ぶ際も、「本当に大きな規模を目指せるか」にちゃんと向き合って意思決定している良い例だと思います。
プロダクトという点では、「事業の根本的な強みが本当に大きくなるか」を見ています。ビジネスをする上で、コアとなる強みがどれだけ大きくなるかが大事だと思っていて、C2Cなんかは良い例で、めちゃくちゃ強いんですよ。C2Cでちゃんと事業を成長させていて、そこがコアな強みであれば、新しいC2C事業を立ち上げることもできるし、売る人と買う人がいる状態を作れるというのは色んな事業に応用することができます。つまり、拡大しやすいんです。
逆にキュレーションメディアだと、コアな強みとなるのは記事コンテンツにおけるSEOとかだと思うのですが、この発展版だけでは1,000億円はいかないだろうと思います。
自分たちがコアとしている強みが大きくなった時に、どれくらいの規模を目指せるのか、これを見ています。
ー具体的には支援先とどう関わっていますか?
福島さんとかアリコーさんに倣って、意思決定に介入しないなど、こちらからあまり管理しないようにしています。だから基本的にこちらから連絡はしないです。でも人や資金調達元を紹介して欲しい時は全然やります。相談に乗ったりとかも、向こうから連絡してくれたらいつでも聞きます。割と年代も近い人が多いので、フランクな感じですね。
順調に行ってたらほぼ会わなかったり、というのもあります。Scoutyなんかはほぼ来ないですよ(笑)。
間接的でもいいから、「まずは」日本全体の幸福度をあげたい
ー今後の展望を教えてください
わかりやすい目標でいうと、日本を代表する起業家になりたい、というのはあります。ただ、大枠の上位概念でいうと、僕が生きたことによってどれだけ日本の幸福度を上げられるか。それは僕個人が直接関わらなくてもよくて、間接的にでも良いので、日本全体の幸福度を上げたいです。
現状の日本では0→1を生み出す起業家が非常に少ない、「維持」の経済だと思います。
東大の優秀な仲間も、なんとなく銀行とかに就職してなんとなく働いている人が多いと感じました。当然そちらも大事ですが、何か新しいものを生み出すことに情熱を注ぐような人がもっと出て来て欲しいです。比率を、「維持」から「0→1」に増やしていくべき。そうすれば、日本の経済が活性化して、日本が明るくなると思っています。
そしてそのアプローチ方法は僕個人が直接関わらなくても、全体として増えれば良いと思っていて。例えば、僕が日本を代表する会社を作ったとしてもその会社単体で日本全体の経済に多大なインパクトは与えられないかもしれない。でも、その会社や僕に憧れて多くの人が起業したいと思うようになれば、より大きなインパクトが出るはずです。
「人が憧れる会社を作り、イケてる人が入ってきて、その人たちが大きな事業を作って、それに憧れてより多くの人が入ってくる」みたいな循環を作れれば、永続的にとてもインパクトが大きいことができると思います。そうすることで、日本全体の経済にもポジティブで大きな影響を与えられるはずです。そのために、まず自分が憧れられる存在になりたいですね。
そう考えるとやっぱりレスリングの吉田沙保里さんって本当にすごいと思います。日本ってもともとどう考えてもレスリングが強い国じゃなかったのに、吉田さんが圧倒的に強くて世界で活躍する姿を見せて、それに憧れてポテンシャルある人がどんどんレスリングをするようになり、結果日本はレスリングで強い国になりました。
そう考えると、吉田さんのインパクトって「オリンピックの金メダル1枚分」よりもはるかに大きいと思うんです。
ビジネス界で、特に僕らの世代だとソフトバンクの孫さんの影響を受けた人はめっちゃ多いですよ。東日本大震災で100億円ポンっと寄付したのがかっこよくて起業する、みたいな。delyの堀江さんとかカウモの和光さん、Yenomの宇佐美さんとかそうだと聞いたことがあります。
起業家が世の中の憧れる存在として認知されるようになって、起業って良いじゃん、楽しそうじゃん、みたいにしていきたいです。
今、達成可能かつ本気で追えるのが「日本」。今後はもっと目線を上げる
ーめっちゃ素晴らしいですね。どうやってそういう考えに至ったんですか?
22歳で会社を12.5億円で売却しましたが「とはいえ物欲がないので働こう、お金のためじゃなかったら何のために働くんだろう」という風に、働く意味を考えたんです。そういうタイミングで「自己欲求」から「他己欲求」に変わって。
働かない選択肢もある中で働くのは、世の中のためになりたいからだと。それも、自分の目の届く直接的なことじゃなくても、大きなインパクトのきっかけになれたらと思っています。
例えば、途上国のボランティアツアーみたいなのがあったとします。往復3万円の交通費で30人が行くとすると90万円です。そういうのを見て僕は「その90万円を募金に充ててその国に寄付した方がよりその国のためになるのでは」とか「90万円を募金活動の資金にして500万円くらい集めてその国に寄付できるのでは」とか思ってしまうんです。
もちろん、実際その国に足を運んで目の前で現地の人の笑顔が見れるとなると行きたくなってしまうのですが、本当にその国の幸福などを考えたら、本質的じゃないのではと思ってしまいます。現地の人たちが本当に幸せになれるのであれば、自分が直接関わらないとしても本質的にベストなことをやりたいです。
だから「プロダクト」を日本一にする、とかではなく、「会社」を日本一にしたいですね。そうすることで日本全体にとってプラスになるはずなので。
今の僕の目線として一番高いところが「日本」ですが、本来目線は上がってくるものなので、10年後もし日本を代表する会社を作れたとしたら、次は「世界」にとってどうやったらプラスの影響を与えられるかという視点になるはずです。今は、自分として達成可能かつ本気で追える最高のラインが「日本」なので、そこにどれだけ早く向かえるかを全力で考えたいです。