【堀井翔太】人が欲しがるものを創れ
家族の影響を受け、漠然と「起業したい」と感じながらも、新卒ではITベンチャー企業に就職
最初に起業しようと思ったきっかけは何ですか?起業されたのは2012年でしたよね。
登記自体は2012年だったんですけど、起業準備は2011年からしていましたね。元々学生時代の頃から、起業したいなとは思っていたんです。それは、親が起業をしていたり、おじいちゃんも大正元年頃から京都で醤油の商売をしていた経営者だったので、家系的に影響を受けていたのが強かったです。そういう経緯があって、「起業したいな」とは漠然と感じており、特にインターネットで起業したいなと思っていました。でも、当時インターネットの事業でどう儲けるとか、どうやって成功させていくかが全く分からなかったので、普通に就職しようと思いました。
そうだったのですね。起業したいという思いを抱えながら、どんな学生時代を過ごされていたんですか?
起業はしなかったものの、企業インターンをいくつかしていました。それこそ、楽天でインターンをしたり、人材系のベンチャーに10ヶ月間くらい住み込みでテレアポの営業をやったりしていました。
どういった経緯でその会社と出会ったのですか?
就活をしていた時に、内定をもらったのがその人材系のベンチャーだったんです。当時メンバーが20人くらいの規模だったので、今で言うスタートアップのような勢いのある会社でしたね。VOYAGEに入社すると決めていたので、内定は辞退したのですが、「入社しなくても良いから、学生のうちだけ働いてくれないか」と頼まれて。その企業からしたら、働いているうちにグリップしようという魂胆だったと思うんですけど(笑)その会社が少し変わってて、東大の前に”ラボ”と称した一軒家を構えていて、東大生に受託開発をさせていたんですよね。で、僕は実家が京都だったため、そこに住んで良いと言われて、その日のうちに自分の荷物を京都から送ってもらって、そこに10ヶ月くらい住んでいました。
学生時代、東京には頻繁にいらっしゃっていたのですか?
大学も京都に通っていたので、当時は就活のために東京に来ていた感じでした。そんな時に、「家に住んで良いから働いてよ」って言われたので、ラッキーだなと。さらに、その会社に、ユーグレナの出雲さんや、マネーフォワードの辻さん、ライブドアの堀江さんが出入りされていたので、そういった方々に会えたのも面白かったですね。
すごい偶然でその場に足を踏み込まれたんですね。
そうなんです。今でもマネーフォワードの辻さんに仲良くしていただけているのは、たまたま辻さんの奥さんがその会社で働かれていたからなんですよね。その10ヶ月間は、ひたすらテレアポをしながら床で寝る、という生活をしていました。最終的には、新卒でVOYAGEに入りましたけどね。
そうだったのですね。ちなみに、ご両親から頼まれたり、自分の中で家業を継ぐという選択肢を考えられたことは無かったのですか?
無かったですね。「継いでくれ」という雰囲気も、「起業をしろ」とも言われたことも無かったです。ただ、自分の父が普通の父親とは違うなと思っていました。土日も仕事に出かけて家にいることは少なかったですし、自分が寝る時間に家に帰ってくることもあまり無かったので、たまに友達の家に遊びに行った時に、友達の父親が家にいて晩酌しているのを見ると「何でこのお父さんは、この時間に家にいるんだろう」くらいに思っていましたね(笑)
新卒の同期だった友人と、双子の兄と起業
(笑)ご兄弟は、お兄さんだけですか?
そうです、一卵性の双子の兄が1人います。兄はエンジニアで、『FRIL(フリル)』の共同創業者です。
双子で起業は珍しいですよね。新卒で入られた会社も一緒だったと別の記事で拝見しましたが、それは偶然だったのですか?
そうなんです。半分くらいは偶然もあるかもしれないですが、僕が「インターネットの企業に絞って面接を受ける」と就職時に話していたので、兄も半分つられていたんだと思います。
そうだったんですね(笑)仲が良さそうですね。
いや、仲はめっちゃ悪いですよ(笑)皆は僕らのことを仲が良いって言うんですが、僕的にはそんなに仲が良いとは思わないですね・・。
えっ!でも、本当に仲が悪かったら一緒に起業されないんじゃないですか?
あ、まぁ兄弟で血は一緒なので、他人よりは阿吽の呼吸で一緒に仕事はできますが、普段しょっちゅうご飯を食べに行くということは無いですね。
なるほど。職種も違うお二人ですが、幼少期から趣味や習い事、スポーツ等も違ったのですか?
双子の持論になっちゃうんですけど、特に一卵性の双子って、他人からすると同じ人間が2人いるように見えるじゃないですか。基本的には顔も似ているし、DNAも一緒ですし。なので、自分のアイデンティティを確立させるために、相手と違うことをする傾向にあるんですよね。例えば、兄の方が勉強はできたりしますけど、僕の方がスポーツを頑張ったりという差が生まれてくるんです。ある日、保険証を見たら僕は”次男”って書かれていて、「あ、俺弟なんだ!」って軽い衝撃を受けた記憶が今でもあるんですけど、なんでしょうね。長男では無い分、弟の自分の方が割とやんちゃで、兄よりも先に何かに挑戦して、失敗して、それを見て兄が真似したり、僕よりももっと上手くやるという感じでしたね。兄が何と言うかは分からないですが(笑)
(笑)そういうこともあって、就職先も一緒になったんですね(笑)
そうですね、インターネットの会社を受け始めたのも、VOYAGEに入社すると決めたのも僕が先だったと思いますが、結果的には同期として一緒に入社しました。
お兄さんは、もともとエンジニア志向だったのですか?
いえ、入社してからだったと思います。それも多分、僕はエンジニアになりたいとは思っていなかったですし、兄が違う方を選んだのかなと思います。なので、お互いに自然と上手くバランスをとるようになっていたんだと思いますね。
では、幼少期や学生の頃は、まさかお兄さんと一緒に起業をすることになるとは考えていなかったですよね(笑)
全く思っていなかったですね、ただ、兄もどこかで「起業したい」と思っていたかもしれないです。僕が自分でやろうと思った時に、兄を誘うまでは一切そういう話をしたことは無かったですが・・。基本的には、能力的にもそんなに変わらない2人だと思うので、どっちが代表をやっても大差ないと思いますが、起業したい意識が強かったのが僕だったのかもしれないですね(笑)
お話を伺っていると、なかなか違うタイプのご兄弟のように聞こえますが、面白いですね・・(笑)創業期には、お兄さん以外にももう1人、いらっしゃったのですよね?
そうですね、もう1人デザイナーの同期がいて、コアなメンバーはその3人でした。後にもう1人後輩も誘って、4人でやり始めていました。
最初は週末プロジェクトとしていくつかのサービスを作り始めた
なるほど。最初は、前職に在籍中に週末プロジェクトとして始められたんですよね?
そうです。サイドプロジェクトとして始めたのは、社会人2〜3年目くらいだったかな。その時はまだ、僕以外の2人は「起業しよう」とそこまで強く考えていなかったと思います。前職では、自分で立ち上げた事業が上手くいって、事業部から子会社になって、運良くその会社の代表をさせてもらいながら、売り上げを伸ばしたりメンバーを増やすことは経験できたのですが、それ以上のキャリアステップを目指すとしたら、自分で起業するしかないんじゃないかって思ったんですよね。あとは、タイミング的に起業やスタートアップの機運が高まっていたのもあるかもしれないですね。
機運というのは、そういったご自身の中での経験だけでなく業界的にという意味合いでしょうか?
社会人4年目という、僕自身のタイミングもありましたし、業界的にもです。特に当時のノボットの小林さんのイグジットが衝撃的で。小林さんは、もともと取引先でもあったり、知り合いが小林さんの会社で働いていたので、純粋に「凄いな」と思ったんですよね。あと、創業メンバーの2人と休みを合わせてサンフランシスコに行って、向こうのスタートアップ環境を見ることで機運が高まったりしました。当時から、エンジニアとデザイナーと僕の3人で、非常に良いチームだなとは思っていましたね。何かつくれるという点においてもそうですし、新卒の同期だし、1人は兄弟だし。
前職の繋がりや、資金調達をきっかけにメンターと出会う
サイドプロジェクトを始められた時や、創業当時に、メンターのような方はいらっしゃいましたか?
起業した時はいなかったですね。起業して1〜2年後、前職の代表の宇佐美さんには、時々相談に乗ってもらったりしていました。宇佐美さんとは、前職の子会社社長をしている時から、定期的に1on1ミーティングをしてもらうこともあったので、その時にアドバイスいただいたことも、起業後は参考にしていました。今思い返しても本当に有意義だったと思います。
なるほど。Open Network Lab(オープンネットワークラボ、以下オンラボ)にも入られていましたよね?
そうですね、当時はシードアクセラレーターに入ることが”スタートアップの登竜門”のような感じもあったので。もちろん、オンラボのメンターの方々には相談に乗ってもらうこともありましたが、最初のプロダクトをつくって、MVPを検証して、ビジネスが回るのも確認して、というところまでは、定期的に誰かのアドバイスを受けるということはなかったですね。どちらかと言うと、大きく資金調達をした後に、元クックパッドの穐田さんや、コロプラの馬場さんが、起業家の先輩かつ、メンターになってくれましたね。
ちなみに、最初は自己資本でやられていたんですか?
アクセラレーターに入って、少しオンラボの資本が入っていましたが、それまでは自己資本でしたね。リリースを出した直後くらいに、数千万円をガツっと調達しました。
エンジェル投資家のような方からは、出資は受けていなかったのですね?
そうですね、当時はエンジェル投資家の知り合いもいなかったですし。
売却があったのが2016年ですよね。エンジェル投資を始められたのはいつからですか?
エンジェル投資ではないですが、LP出資をしたのは去年(2016年)ですね。これは、自分が起業をした頃に当時のBEENOSの佐藤さんから出資をしていただいたので、一種の恩返しみたいな感じです。売却後にご飯を食べに行って、「ありがとうございました」という話をしていたら「BEENEXTが今調達中なんだけど」という話を伺って、起業家がLP出資者として戻ってきて、ファンドのメンターになるという良い循環だなと思ったので、その一助になれるならと思い出資しました。
エンジェル投資というよりも、直接話を聞いて、フィーリングが合えば応援したい
では、エンジェル投資よりもLP投資が先だったのですね。
はい。スタートアップに投資するようになったのは、今年(2017年)に入ってからですね。まだ自分もエンジェル投資家という自覚は全然無いんですけど・・。
今年に入ってから、何社くらい投資されていますか?
全部で3社ですね。Tastimeと、 cluster.、もう1社は非公開です。
1件あたりの金額感はどのくらいですか?
数百〜1,000万円くらいですね。
なるほど。案件自体は、どういった経路が多いですか?
紹介が多いです。あとは、僕のブログを読んでいただいた方から、Facebookのメッセンジャーで直接ご連絡をいただくこともあります。
実際に連絡がきたり、お会いした後、投資に結びつく割合はどのくらいですか?
まだ実績も多くないので参考にならないかもしれませんが、これまでだと、5~10社に1社くらいでしたね。そもそも、その事業領域に詳しくないことも多いので、話を伺ってフィーリングが合いそうで合えば出資したり、という感じですね。
起業家の自己満足ではなく、ユーザーが本当に欲しがるものを作れているかを重視
起業家のどこを見ていらっしゃいますか?
僕自身が、人が本当に欲しがるプロダクトを作れているか、をすごく重視するタイプなので、C向け、B向け関係なくこの点はよく見ていますね。ユーザーがどんな課題でそのプロダクトを使うのかや、誰に、何を提供しているのかがはっきり分かるプロダクトが良いなと思っています。なので、その人(起業家)に、質問したり、観察したり、実験したりという力がどのくらい備わっているかを見るかもしれないですね。 よく、「誰が、何で、使うサービスなのか」を質問させてもらうことが多いです。
なるほど。では、プロダクトや思考面以外の、人柄や性格等で見られているポイントはありますか?例えば、これまでに投資された3社で共通されている点など。
思考面とも少し重複しますが、どこまでユーザーの課題を深堀りできているかは重視しますね。どの起業家も、最初のアイディアからは何度かピボットして最終的に今のアイディアになっているんですよね。その理由としては、ユーザーをよく観察し、会って質問をしたり話を聞いて、それに合わせて実験をして、プロダクトに反映させたりしているので、プロダクト・マーケット・フィット(以下PMF)をするまでが時間も掛かるし大変なんですけど、そもそもユーザーが欲しがるものを理解できないと、そこにたどり着くのは不可能だと思うんですよね。 PMFの到達速度を早めるために仮説検証をスピーディに繰り返せるかどうか、実験センスのあるなしは重要かなと。
堀井さんがそう考えられるのは、ご自身のフリルのアイディアにたどり着くまでに色々なサービスを試されたご経験があるからですか?
そうですね、それがめちゃくちゃ影響しています。最初に3人で週末プロジェクトとして始めた頃は、なんていうか「俺が考えた最強のサービス」だと思うものを作っていたんですよね。例えば、海外で流行っていた Foursquare(フォースクエア)というサービスを知って「やばい、これは絶対日本にくるな」と信じていたので、当時主流だったガラケーに合わせて、Twitterとチェックイン機能を合わせたサービスを作ったんですけど、誰にも使われなくて。その時は、単純に「海外で流行っているから、日本でも流行るだろう」という文脈でパクりのようなサービスを作っていたため、全くユーザーのことを考えられていなかったので、上手く行かなかったんですよね。
その頃はユーザーになりうる人に、ヒアリングもしなかったということですね。
当時は全くしていなかったですね。だから、実際に起業するとなった時には、同じ発想でいくと絶対失敗すると思ったので、人が本当に欲しがるものを作るためにはどうしたら良いんだということを考えましたね。そんな時に、女の子がブログ上だったり、Twitterや、mixiのコミュニティ内で服を売り買いしているのを見て、「モバオクもヤフオフもあるのに、何で使わないんだろう」って思ったんです。そこで、彼女たちに聞いてみたら、「PCを持ってないんです」とか、「課金もいるし、1回試してみたけど、複雑すぎて使いにくかった」というインサイトが見えて、そこで初めて「これはイケるかもしれない」と思いました。
当時、そういう個人で物を売り買いしている人が、何故既存のオークションサービスを使っていないかというインサイトについては、多分僕が日本で1番詳しかったと思います。だから、同じことを起業家にも、どれだけ深堀りができているのか、何故その課題が存在していて、それをどう解決しようとしているのか、というのはよく聞いたりしますね。個人的に興味があるというのもありますけど。
このビジネスを、なぜ今、自分がやるのかの理由を答えられる人は強い
ありがとうございます。では、ジャンルや事業の観点では、今後どういった業界や分野に投資をしていきたいと考えられていますか?
特に無いですが、自分がマーケットプレイスのモデルをやっているので、このモデルには純粋に興味がありますし、何かしらでアドバイスできることもあるんじゃないかなと思います。シェアリングエコノミーの分野や仮想通貨周りもこれからまだまだ伸びると思ってます。あと月並みですけど、フィンテックは、特にこれから個人間の格差がどんどん広がっていくと思うので、海外で流行ったような状況に日本も近づいていくので、その辺の分野には興味がありますね。日本だと、法律の関係で難しい部分もあるかもしれませんが。
人もお金も大きく動く分野に興味があるという感じでしょうか。
フリルが上手くいった理由は、もちろんユーザーが本当に欲しがるものを作れていたといいうこともあったと思いますが、タイミングが非常に良かったんですよね。スマホが出てきて、カメラアプリを使って写真を加工する人が増えてきた頃で、個人間での物の売り買いをスマホアプリという文脈で塗り替えられるタイミングでした。
だから、起業家にも同じような質問を絶対聞きます。「このビジネスを、今やるべきだと思うのは何でですか」と。僕が創業した当時は、「今やるべきか」が分からなかったので、答えられなくても全然構わないんですけど、もしこの問いへの解が自分なりに考えられている人だと良いなぁと思って聞きます。
資本での勝負に備え、資金調達から売却に方向転換した経験からアドバイスできることも
なるほど。ちなみに、楽天への売却はどのような流れで決まったのですか?インターンをされていたのは何か関係あったりしました?
あ、それは全く関係無かったです!偶然でした(笑)会社を売却したのは昨年(2016年)の9月なんですけど、元々は、売却ではなく資金調達をしようと思っていたんですよね。その時に、調達先の数社と話し合いを進めている延長で、楽天に決めたという感じでした。同じタイミングで、(競合である)メルカリが80億円くらい調達をしていたのは影響が大きかったです。最近は、環境的に起業をしやすくなったし、プロダクトの作り方も洗練されてきたからか、スタートアップのプロダクトは、パクりパクられ、コモディティ化するのが非常に早いんですよね。例えば、レシピ動画は、機能の差異は多少あるものの、競合と比較してどのくらいのマインドシェアをとるか、空中戦をいかに制すか、みたいな戦いになっていると思うんですよね。経営力や、資本力で勝負する戦争がすぐ目の前に広がりつつあると思うので、そうなると、調達をいかに続けられるか、お金を気にせずどれだけ殴り合えるか、の勝負になる。調達力や、どういう応援団をつけるかという点においては勝てないなと思ったんです。相手はシリアルアントレプレナーで、こちらにはCFOもいないくらいでしたし。 そうなると、強い経営力を持つ会社とタッグを組めた方が、この先戦いやすいだろうな、と思ったんです。
そういう状況は、最近多いですよね。ちなみに、その資金調達を始めた段階では、海外展開も視野に入れられていたんですか?
いえ、当時は海外進出は全く考えていなかったです。結局、マーケットフィットした状況が日本とは違うのでそのままのモデルを持ち込んでも少し難しいのかなと思ってました。例えば、決済のインフラが無いとか。日本は国土が狭くて宅配業者が全国に割安で配送してくれますけど、アメリカだと広いので、物を配送するだけでも割高になるとか。日本人は、国民性的にお行儀が良いですけど、海外だと不正な取引の対応も大変そうで、その当時も今も、海外進出についてはあまり考えていないですね。
ありがとうございます。それでは、次に投資先へのサポートについてお伺いしたいのですが、まず、堀井さん自身の強みは何でしょうか?
PMFするまでは、かなり泥臭くユーザーインタビューをしたり、お金が無い中で最初のユーザーを自力で集めたりしていたので、その辺りの泥臭いエピソードは話すことができると思います。あとは、資金調達をしてから、テレビCMを打つだとかの、PMFした後のお金を使ってどうグロースさせるか、というマーケティング寄りのところも相談を受けることが多いですね。実際に打った広告の効果の測り方や、どういう手法で、どの頻度でやるのか。FacebookやTwitterの広告を、僕自身が運用していた経験もあるので、管理画面を一緒に眺めながらアドバイスをしたり、経験者を送り込んだりもしますね。女性向けのアプリで、どうユーザーを獲得し、どうプロダクトをグロースさせていくのか。TastyTimeもそうですし、 cluster.もそこに近い感じでしたね。
では、実際に会って話を聞いて、アドバイスを返して、という感じでサポートされているのですね。
そうですね。起業家によりますけど、向こうから連絡してもらって、月に数回一緒にランチに行くことが多いですね。定例とかは特に設けていないので、基本的には向こうから連絡が来たら会って、話をしたり、人を紹介したりという感じです。
孤独で不安を抱え続ける起業家の心の支えとなり、最後まで信じ続けてあげたい
起業家と接する上で、気に掛けていらっしゃることはありますか?
どんな事業だとしても、現場で動いている起業家が1番よく分かっていることなので、もちろん自分なりの考えをアドバイスするんですが、「真に受けずに、これも1つの判断材料として捉えた方が良いよ」とは伝えていますね。あとは、大前提として彼らの邪魔することがあってはならない、というのは常に感じています。
あと、起業家って成功するともてはやされることもあるとは思うんですけど、それまではほぼニート同然じゃないですか(笑)誰からも評価されない、暗い期間がすごく長くて。その中で、僕も経験があるから分かるんですけど、誰か1人でも、自分のことを信じてくれているだとか、期待し続けていてくれているかどうかって、心の支えとしては重要かなと思っています。VCさんの場合は、商売として、金銭的なリターンを追求して投資をされるのが前提としてあると思うのですが、僕の場合は違うので、最後まで付き合おうと、どうなったとしても起業家を信じて最後までやり抜こうと、別に損しても構わないし、その人が成功するまで、最後まで伴走してあげられるようになりたいな、と思ってはいますね。僕に、馬場さんや穐田さんがそうしてくれたように、最後まで起業家を信じ続けてあげられる人になりたいなと。
つまり、起業家として、もそうかと思いますが、1人の人間に賭ける、という感じですね。
もうほぼそうですね!僕が投資するような段階だと、ピボット上等なフェーズだと思うんで、結局そうなりますね。その起業家を信じて、頑張っていこうね、という感じですね。
あとは、自分で言うのも変ですけど、シリアルアントレプレナーや大企業と同じ分野で戦ったことがあるし、先述のPMFした後に、早期にプロダクトがコモディティ化してライバルがたくさんいる中で、資本の戦争にシフトした時にどう戦っていくかは、身に染みて感じていますし、プロダクト自体は自分が先に作ったものの、そこで勝ち切れなかったという貴重な経験があるので、起業や資金調達の環境が整ってきた今だからこそ、増えてきた悩みについては、身をもって学んだ経験について多少話せると思いますね。と、言いつつまだ負けたとは思っていませんが。
資本と言えば、フリルでは、最近Youtuber系の広告とかも打たれていますよね?あれはどういう経緯だったのか教えていただけたりしますか?
自分が広告事業をやっていたので分かるんですけど、上手くいった広告って、絶対に他の人もやり始めて、すぐに高騰するんですよ。だから、予算の何%とかは、常に新しいものを発掘するためにとっておいて、失敗しても良い前提で、新しいものをどんどん試す必要があるとも感じていますね。例えば、僕が初めてFacebookの広告を打った時って、誰も出稿していなかったんですよ。何でかって言うと、まだ日本でリリースされていなくて、管理画面も英語対応のみだったんです。代理店も取り扱って無かったので、全員分のFacebookアカウントで、クレカのアカウントを1人ずつ設定して、手動で回したりしていました。CPAが8円とかだったんですよ、当時は。でも、2〜3ヶ月したら代理店が扱い始めて高騰しちゃったので、次はまた誰もやっていなかったTwitterで広告を出し始めたりしていましたね。
もちろん、CMをやるみたいな空中戦もそうですし、ゲリラ的な何かは、自分でも考えて試したりしていました。
創業初期やグロース時期から、企業文化やコアバリューは特に大事にしていた
会社のカルチャーの話に戻りますが、創業の時、一軒家で共同生活をしつつ仕事をされていたんですよね?
そうですね。シリコンバレーに行った時に、ガレージベンチャーがいいなぁと思ったんですよね。あとは、皆それぞれ賃貸の部屋があって、オンラボをオフィスとして使っていたのですが、結局朝から晩まで一緒にいるし、僕と兄が異常なくらい、昼夜問わず土日もいりませんというくらいハードワーカーなので、一緒に住んで、コミュニケーションのロスを少なくした方が良いなと思ったんです。あと、今でこそ資金調達の環境は良いですけど、当時はまだ波がくるタイミング前で、全員給料がゼロだったので、皆で一緒に住んで節約しようという思惑もありましたね。
すごいですね。その頃や、その後一軒家を出てオフィスを構えられた頃に、創業初期から会社として大事にされていた雰囲気づくりや組織づくりのポイントはありましたか?
それも良い質問ですね。後回しになりがちなんですけど、企業文化はめっちゃ大事だと思いますね。例えば、サービスが好きで入ってきてくれる人は、事業をピボットしたり会社が傾きかけたり、経営方針が変わったりすると、辞められることが多いかもしれないんですけど、会社や企業文化が好きで入って来てくれる人は、そういう厳しい時でも一緒に踏ん張ってくれたりするので、カルチャーは最初から大事にしていましたね。
最初というと、創業者4人の頃からですか?
もうちょっと増えた時でしたね。最初の10人が集まる頃には、それを整える準備はしていました。
その決め方は、例えば創業者メンバーやボードメンバーで大まかなものを作られたのか、それともその10人がそれぞれ大事にしたいことを話し合った感じでしょうか?
結局最初のカルチャーの核になるものは創業者が作るんですよね。で、最初に入ってきてくれる10人は、ストックオプションも多少はあるかもしれませんが、基本的にはそんなに良い給料も支払えないので、創業メンバーが目指す方向性や実現したいことに賛同してきてくれる人が多いので、彼らにヒアリングをして「どういうカルチャーが会社に根付いているか」をヒアリングしたりしながら、作りました。だから、その頃は「会社のコアバリューを洗い出す合宿」とかもたくさんやりましたね。
売却前後も、会社の文化やメンバーを1番に気遣っていた
社員と社長のコミュニケーションについてですが、売却前後は何に気を遣われましたか?
売却時、従業員は70~80人だったんですけど、確かに売却前からすごく気に掛けていました。普通M&Aって、文化が違う企業同士がくっつくので、絶対に何かしらの反発が起こるんですよね。特に、急激に双方が近づくと、文化が崩れたり、離職率が高まったりしてしまうので、少しずつの変化で溶け合わせていきたくて、突然の統合や、屋号がなくなるとか、サービス名が変わるとか、社員の籍が転籍するといった選択肢は、できるだけ避けるようにしましたね。
何事も諦めない限りは、失敗ではない
ありがとうございます。では、次の質問に移りますが、堀井さんが大事にされていることや格言は何ですか?
僕、学生時代はずっとテニスをしていたんですけど、高校が強豪校で、部内のモットーが、不撓不屈だったんですよね。簡単に言うと、諦めるなということなんですけど、今でもそれをモットーに掲げていますね。皆さんも仰ってると思いますが、起業していると、成功するまで辛いことが多いんですよね。「あいつはもう終わった」と言われたり、資金調達の途中で散々断られることもしょっちゅうありますし、出口がもうないという状況もあれば、人がどんどん辞めて会社が崩壊することもあります。でも、諦めない限りは、失敗じゃないかなと思っています。
良い言葉ですね・・。だからこそ、努力家でありハードワークもこなされるのでしょうか。
そうですかね・・。穐田さんに投資していただいた時に、「自分と同じ考えだな」と思ったんですよね。穐田さんは100歳まで現役でやるっておっしゃってて、僕も死ぬまで現役でいたいんです。インターネットの事業においてもそうですし、起業家としてもやり続けられるなら、現役で100歳までやり続けたいと思っています。そのためには、ハードワークし続けることで、自分もどんどん成長し続けられると思っています。
100歳ですか!すごい・・。次の質問が、人生を通して実現したいことだったのですが、もうお答えいただきましたね。そう考えられるのは、何でですか?何が原動力なのでしょうか?
なんでしょうね・・。他にやることがないってのもあるんですが、僕、趣味が全然無くて。基本的には、仕事しかしていないんです、本当に。本を読むか、仕事をしているかのどっちかですね。皆さん、お出掛けしたり釣りに行ったりするじゃないですか。普通は、お金を多少持ったら車を買ったり、美味しいご飯を食べに行ったりすると思うんですけど、そういうのに全く興味が無いんです。
お酒とかもあまり飲まれないんですか?
お酒も飲めないし、タバコも吸わないんですよ。
なんと・・珍しい、というか素晴らしいですね。
他に興味があるものも無いです。1%ずつ成長していったら、すごく成功する法則があると思うんですけど、あの気持ちですね。他の起業家と比べて、自分は才能がある訳でも優秀という訳でもないので、自分が誇れることはこれくらいしか無いだろうなという感じですね。
日々少しずつ成長していって、いずれは周りの優秀な方々に追いつき、追い越したい
他のインタビューで、「大学生の頃に起業したかったが、自分にはそんな実力がないとわかっていたのでやらなかった」と答えられていたのを拝読しましたが、とても謙虚ですね。
年上や同世代だけでなく、僕より年下でももっと優秀な方はたくさんいるじゃないですか。もし自分がその人たちと同じくらい成功したいと思ったら、与えられている時間は有限かつ一緒なので、その人たちよりどれだけ自分が努力して成長できるかに懸かっているのかなと、心の中で思っているのかもしれませんね。選択肢が多いと迷うじゃないですか。だから、選択を少なくするために「他のことには興味を持たない」と無意識に考えているんだと思います。
それは幼い時からの癖のようなものでしょうか?
かもしれないですね、そこまで深く考えたことは無かったですが・・。穐田さんや馬場さんのように、周りの凄い人たちをたくさん知っているので、自分がそこに立っていないというのは僕の中で明らかなんです。馬場さんなんて、今の僕と同じ歳ぐらいには会社を上場させていますし、今でも凄い功績を残されているので、そういった人たちよりも、早く、同じような実績を残すとしたら、倍くらい努力しないといけないなって思うんですよね。
なるほど・・早い時期にメンターになってくださった方々が偉大な方ばかりだったんですね。
記録を塗り替えるじゃないですけど、せめてその人たちくらいのレベルにもっと早く到達するにはどうしたら良いんだろうと常に考えていますね。